その狂い様、騎士に非ず
「白竜のつがいが、なにかしたのか?!」
外壁の上で、俺と騎士の様子を観察していた衛兵たちが、どよめく。
騎士がクレーターに飛び降りた衝撃で、さらに辺りの地面が脆く崩れる。
そんなこと、お構いなしにチーズへと向かって、狂った様に辺りの土砂と一緒に蹴りを放ち、バランスを崩して、転倒して、起き上がって――今度は狂ったように、蹴り上げた土砂に埋もれたチーズの場所へ騎士が拳を打ち込み続ける。
(ダブル・アックスハンマーとか……プロレスでも中々、観んぞ)
外壁の上の衛兵たちは呆然と、女神から遣わされた使徒と形容した――騎士の狂気じみた振る舞いを言葉も無く、眺め続けていた。
状況が終了したことを確認すると――俺は、トキノに連絡を入れさせる。
「ゲルダたちに出番だって、伝えてくれるか? ……終わった」
陶片を切って暫く。うろくづの森の方角から――とむとむ・てあー・とむとむ・てあー・ぽちょぽちょ・さらさら月光号……と言う、アレな名称であるらしい大釜が飛んで来た。
それを目にして、怯えて弓に矢を番える数人の衛兵。
矢が放たれるより早く、指輪から呼び出した「おちんちんシリーズ」で、弓の弦が掛けられる上弭、額木付近を撃ち抜く。
弾ぜる弦の音。
「邪魔すると、死にまーす! すいませーん!」
なにが起こったのか理解できない衛兵たちが、怯えて弓を引っ込めるのを確認すると、大釜に向かって、俺は作業の開始を伝えた。
* * *
魔女の大釜をゆっくりと操縦し、スコラスチカを降ろすゲルダ。
形も残らないほどに叩き潰して撒き散らしたチーズによって、辺り一面に拡がったネルの――龍の気配とも言うべきものに、混乱をきたしているのか、周囲の索敵を開始したのか、騎士は沈黙。




