ライフハック:異世界
「ねぇ、ちょっとアンタ……」
「ツォンカパの部族はそれなりの数がいる……と、思いたい。それを前提に考える。人海戦術で矢を……無理だ。どう考えたって、この世界の生産能力なんて、たかが知れてる。剣を見れば分かる。1番問題なのは多分……鏃だ。下手をすれば鏃を造るために、鉄を製錬するところから、始めなきゃいけないかも知れん……。いや、鉄の精錬は要らないのか。なんだったら、この貰った剣を、鋳潰して矢を作ればいい。問題は4日で、どうにか……できる訳が無い。詳しくは分からんが――鏃ひとつ作るのに職人でも、どれくらいの時間が掛かる……」
「……おい」唐突に、ネルのドスの利いた声。
「なんだよ? 今、考え事してんだから ほっといてくれ。 今度、冷凍のカット・マンゴーでも、ガブガブくんだろうと、下ろした金で買ってくれて良いから……。あぁ……ついでに、その時には鍵渡すから、アパートに行って、しばらく前に置いて来させた、スマホ取って来てくれるか? スマホのソーラーバッテリーも、いくつか買って来てくれ。できれば防水仕様の奴な。電波は来ないにしても、時計も電卓もカメラも無いのは、不便で困る」
「そうじゃなくて……巣に戻りましょ? 考えごとは中でなさい」
不承不承に顔を上げて立ち上がると、辺りはすっかり暗くなり、家の特徴的な――切妻屋根のシルエットが、大きく欠けた月明かりに照らされ……
「……おい。ネル?」
「なによ? 早く巣に入りなさい。アンタまだ、ご飯も食べて無いのよ?」
「それは……別に良いから」
「よか無いわよ。とっとと聞き分けなさい。でないと、おちんちんにパンチするわよ? 痛いわよ? ツライわよ?」




