いざ! キャバクラ!!
夢魔である彼女たちが、やって来てからというもの、この領内の様相は一変した。さしずめ例を上げるとするならば――これだ。
今、俺の目の前には、煌々とネオンの輝きを見せるピンクな御店が。
「コルメラ……アレサナ……ご説明を戴こうか……」
彼女たちには、ここにやって来た夢魔たちのまとめ役と、繋ぎ役をお願いすることにした訳だが――。
中世西欧レベルの文明世界で、悪目立ちしない訳が無い、このネオンの看板。
先日、夢魔たちが、糊口をしのぐために酒場を開こうと考えているらしいと聞き、そして、その店舗名を是非つけては貰えないだろうかとコルメラに頼まれ――少し、嬉しくもあって、幾夜も夜通しで、その店の名前を考えてみれば……まさかそれが、ド派手なネオン看板となって、店の入り口に掲げられるとは夢にも思わなかった。
こいつら、自分たちが人間社会の片隅で、ひっそり生きなくてはならない存在だと言う自覚は、無いのかと。忘れちゃ……いやしないかと。
「ええっと……それが……」
なにやら、しどろもどろとした様子のコルメラ。
「このピンクな色合いが、私たちの魂の琴線を震えさせるからです」
臆面も無く、ハキハキと言い切るアレサナ。
(だから『あちら』から業者さんに来て頂いたと? 自慢の手練手管を使って?)
「魔」と呼ばれる存在にやたら鼻が利く、聖職者が居なければ……と言う前提が付く、彼女たちの――人間の感情や、記憶、精神と言った物を操作する能力あっての力技。
「も、勿論! 問題にはならない様に注意は払いましたし「お願い」もしっかりとさせて戴きました! 代価の方も金……現物で、ではありますが、充分なお支払いをしました。だ、ダメだったでしょうか……」
「ダメも何も……」
肩を縮こまらせるコルメラに言葉を続けようとしたが、これは既に終わったこと。
「次に、こう言うことをする時には、報せて?。アテはあるからさ」
彼女たちに、そう注意を促したところで――店の入り口の扉が開き、マーヴが飛び出して来た。前髪に両目が埋もれた、相変わらず表情を読み取りづらい彼女が嬉し気な声を上げ、俺の腕を取ると洗濯板を押し付けて、店の中へと招き入れる。
(いざ、行かん! 初キャバクラ!)
ネオンの看板が、何かを焦がす時に発する音を奏で続けていた。




