コウノトリさんにも、キャベツさんにも……泣きながら聞いて回ったわよ?!
吐き捨てる様に口にして、アブサン・グラスに渡されたスプーンを指で弾いて落し、白く濁った液体を一気にあおった。
「ぶぅ、ふうぅぅうぅ~~~っ!!」(相変わらず……美人、台無しだぞ? それ)
「夢魔って……あれか? サキュバスとか言う類の奴か?」
「そうよ」
俺の物問いに、相も変わらない仏頂面。
「……でも、年がら年中『繁殖、繁殖』、『赤ちゃん、赤ちゃん』って言ってる、お前からしたら……むしろ好意的に捉えそうなものじゃないのか? そういう存在って」
こいつの思考回路が、理解できないのは、今に始まった事では無いが、その辺りが少し……引っ掛かる。
悪魔から「どうぞ」と差し出された、丸のままの炙ったスルメをひったくると、ネルは
「あ、アタシもね……200年前までは、そう思っていたわよ」
「200年前?」
生まれ変わる以前の俺が、死んだ時期に何かあったのだろうか……。
ネルは怒りに震えつつ、言葉を続ける。
「コイツら……ってね、オスの子種を集めて……それをインキュバスに手渡して、アチコチのメスのお腹にばら撒く、悪戯をやらかすのよ……。ピ、ピンク・フラミンゴか……。」
そのネルの話が、耳に届いたのか「い、……嫌っ」と、リュシルが青い顔で短く声を上げる。
「……お、お陰でね、アタシは死んだアンタの……生まれ変わり先を……必死に探して回っていたってのに……その『出生ロンダリング・ゲーム』のお陰で、アンタを探して200年も泣き続ける羽目になったのよ。アタシたち姉妹、6頭……全てが集まることが……どれだけ……どれだけ大変な事か……」
そこまで口にすると、手にしていたスルメを夕食前にもかかわらず、大型肉食獣の捕食シーンの様に、迫力満点に喰らいつき――引き千切る。
(……あ、なんか此れは……)
迂闊に触れると後々、面倒臭い問題になる奴だ……と思った。ネルの刺すような視線に晒され続け、縮こまるサキュバスであるらしい3人。




