人間って不便
スコラスチカは、細く長い白い指先で、バットのレバーを触り、好みの適温になったことを確かめると――それをつまみ上げて、口に垂らし入れ、美味そうに咀嚼し始めた。
一切れを平らげたスコラスチカが、何故か俺のカップヌードルに眼を向ける。
「人間って……不便よね」
* * *
スコラスチカとのおやつの後、俺は地下の扉の奥。『門』の脇に置かれたコレクション・ケースに並ぶ、ヴィネットに触れて領内の街へ。
もう、1~2時間もすれば夕食の時間と言った所だが……きっと今の俺の辛気臭い顔を見ながらでは皆も、食は進まないに違いない。
まるでそんな事、気にしそうにも……無い奴らの顔も、数人思い浮かびはするけれど……。
辿り着いた街は、領内11ヶ所に造成された街の内、内陸方面の街。デシレアが持ち込んだ、外見のみの蒸気機関車だけが生命線と言える――領内において、輪をかけて辺鄙な街。名前はなんと付けたろうか……。
「大丈夫……きっと、御屋形様……なんとかしてくれる……」
大通りの中ほどまで歩くと、並び建つ建物に挟まれた小道から、聞き覚えのある声。
(シルシラ?)
ヴィネットに触れて、彼女もココにやって来たのか、誰かと話している様子。
人見知りが激しく、魔術師の娘たちの中では、それなりに年長者で、最高の語学の才を持つにもかかわらず。共に育った姉妹以外には、滅多に口を利かない彼女が一体、誰と話をしているのか。
「でも……その人、あの白竜ネルのつがいとかって言うし……ダメなんじゃない?」
「――、……、――、」
「あたしたち、竜には目の敵にされる存在なのよ?」
「…………」
トーヴェの知覚で捉えた、シルシラの俯き加減。
今の俺に……他人のことに気を回す神経があったことは驚くべきところ。気が付けば、シルシラの話し込む、お相手の方へと足を向けていた。




