面白味のない男とか、今更言われても……困る
ピエレットから「姫」と呼ばれるリュシルが、椅子に腰掛け、身に着けたドレスのスカートを、無念に握り締める姿を知ることが、精々。
そして、今の俺は2人の会話の内容から、知ることになった――彼女たちの関係性と、リュシルの出自について関わる事柄について、関心を示すことはできなかった。
「……腹減ったし、なんか食うか」
* * *
「あら♪ 巷で評判の悪の大魔法使い様じゃない♡」
厨房に来てみれば先客の姿。スコラスチカが、その長過ぎる何本もの脚を窮屈そうに縮こまらせて、なにかをしていた。
冷蔵庫から取り出したバットに入ったレバーを、台の上に置いている所を見ると、室温になるのを待っているのか?。
「誰が、悪の大魔法使い様だ……コラ」
空元気で返して見るが……はぁ――。
「……なんか、つまんないわね? 貴方」
「元々、面白味のある男だったとは……自分でも思わんぞ?」
厨房の戸棚に在った、カップヌードルにポットから湯を注ぐ。
「う~ん……。人から、アレコレ言われるのが……そんなに気になるの? どうでも良くない?」
「人目を気にして生きて来た、スコラスチカ様のお言葉とは思えませんな」
「むかつく♡ おやつ、貴方に変えてあげようかしら」
湯を注いだカップの蓋をシールで止め、椅子に腰掛ける。なんだか全てが……しんどい。
「そうだ。そう言えばアルパゴンが、貴方の大事な……チーズの熟成室に入って行くのが『聞こえた』わよ? なんだったの?」
「さぁ……ゴキブリと一緒で、どこにでも現れる奴だから。実際、あちこちに自分の切り離した影をばら撒いてるみたいだし。……そう言う所から『生える』みたいに あいつ現れるんだけど……見たこと無い?」
「有る様な……無い様な……」
彼女の多すぎるせいで、焦点が合わせ辛いと言う眼には……。これを聞くのは酷な話かも知れない。




