戦場のマイム・マイム
こいつらの無駄に荒っぽい振る舞いなんて、流石に慣れっ子になっていた俺は――声も上げずに、目の前に振り下ろされた刃を見ていた。
間髪入れずに甲高い金属音。片刃の斧の表面に弾かれて、軌道を変えた強力な弩の太矢が足元に「ドン!」と言う、想像以上に大きな音を立てて突き刺さる。
「戦場にあっては、何が起こるか分からぬ。我らのような者たちが居た方が、良いのでは無いか?」(……そ、そ、そうですね……ほ、ほんと、た、助かります)
ここまで届くとは夢にも思わなかった弩の矢。それに続いて、雨の様なザァーッっと言う音が、空から。頭上に盾を掲げ、密集隊形を構築し始める頌の部族の一同。
彼らの足元で、膝で蹴られ、踵で踏まれ、押し合い、圧し合い、もみくちゃにされる――しゃがんだままだった俺。
掲げられた盾の下で「ぎにゃーーーっ!?」と、悲鳴を上げ続ける俺に皆は、それはそれは愉し気な笑い声を上げる。
「さぁ! ツモイよ! どうやら戦が始まるぞ! お前の戦働きを、我らに見せてみろ!!」(戦働きの前に……おまえらの膝喰らって……俺、死にそう……なんですが……)
まるでアフリカゾウの群れの暴走に巻き込まれた、憐れな小動物の様。陶片を指輪から呼び出すと、ぐったりとしたまま――地面に打ち棄てられた、ボロ雑巾のように横たわり、ぶるぶる震える指先で通話ボタンを押した。
「……お、お願い……しま……すぅ……」
* * *
弩による牽制射撃の雨が止むなり、プリムデイル王国側から、激しい軍鼓の一斉連打が鳴り響き――雄叫びを上げて、黒い波の様に軍勢が殺到して来た。
……が、そこまでだった。




