季節外れの戦端
そして、それに比べて鼓吹の奏でる音楽は勇ましく、きっと末端に至っては、今回のネルを討伐するための遠征は――恐怖で直ぐにも崩壊して、遁走を開始するのでは無いかと言うことを窺わせた。勇ましい音楽は、彼らを奮い立たせるためのもの……なのだろう。もしくは軍容を誇示して、こちら側に降伏を強いるのが狙いなのか。
「……つかよ? ハリバドラ」
厚さ数センチはある片刃の戦斧を地面に突いて、傍らに立つ、オークの中にあっても巨漢の彼に声をかけると、ぶっきらぼうな声。
「戦争ってさ? 普通、冬を控えてやるようなものなの? 冬に……戦争で勝てた試しは無いって、歴史にあった気がするぞ?」
しゃがみ込んで、両手で頬杖をつき、目の前の軍勢についての意見を求めると、世間的には――義理の兄になるのかも知れない、このオークは、口数は少なかったものの、それに応えてくれた。
「知らぬ。しかし大方、白龍ネルを――そこらの蛇か蜥蜴と同じ様に考えたのだろう。寒くなれば、それらは、動きを止め、眠りにつく」
「……ふぅ~ん」
確かに最近、こちらの世界の朝は、少し肌寒くはなって来た。そのせいか、一緒に寝ているネルが寒さに震えて、俺にしがみついて来る頻度が増えた様にも……思わないでも無い。雪山でもあるまいし、裸で抱きつかれると暑くて敵わないと言うのに……。とは言っても、まさかアイツも、そこまで爬虫類な生態の奴と言う訳でも無いだろうが――。
少し、自信がない……。
――けれども歴史に学ぶ、戦争のセオリーを踏み外す、今回のこの目の前に展開する大軍勢の意味するところは、その程度のものなのかも知れない。




