教会の彼には、気苦労ばかり
屋敷近くまでやって来たものの、領域へ足を踏み入れることも出来ず
声を張り上げて、俺たちの名を呼んでいた所を、頌の村の連中に見つけられて、屋敷に案内されたのだとか。
接し方ひとつ間違えるだけで、人類に多大な恩恵と被害をもたらすと、教義の裏で密かに伝えられる――ネル。
彼女が住む、この地に足を踏み入れて以来、彼は気も狂わんばかりの怯え様。応接室の椅子に腰掛けると彼は、ここに来た目的を果たすべく、事の経緯についてをぽつりぽつりと話し始めてくれた。
聖鈴教会からの人間がココにやって来たことは、直ぐに屋敷の人間たちに伝わり、それに何事かを察した各貴族家、御令嬢の皆は、同席したいと詰め寄せた――。
「……そ、そんな訳でして……聖女メルトゥイユが、調伏した……あ、悪……竜……す、すいません。ネ、ネル様は……どうやら生きていた……そして受けた傷を癒すために、この地で執り行われた槍試合から戻る途中の……貴族家の御令嬢様方を……捕って喰らい……神に徒成すための機会を窺っているのだ……と、王城で、まことしやかに持ち切りな様でして。……ならば、傷つき弱っている内が……好機。神敵である竜に止めを……刺そうと、今回……この討伐のための軍が、急遽編成されました様でして……」
「……ふ~ん」
知らせに駆けつけた彼の話を聞き、ネルにしては珍しく喚きたてもせず、興味も無さげ。
話が一区切りするや、虚ろな目で宙を見上げて、糸の切れた操り人形の様に膝をつく、デズデモーナ。
「あはははっ……あはははっ。どう言うことかしら『王城で持ち切り』って、お話を広めて回った方のお顔が、目に浮かんじゃう……」
(……親父さんだろうなぁ)




