鬼瓦か、ガーゴイルか
……ただでさえ、人間に怖れられるオークと言うことを抜きにしても――こいつらの普段の格好のままだと、とても治安を維持する側には見えないとの判断から「制服」と言うものを与え、身分を明らかにして、統一感を出すことにしたのは、まぁ理解はできるが……。
「や~苦労したんですよ? 皆さんの足に合うブーツと、グローブを短期間で必要な数を御用意するのは……」
「……どうせ、デシレアに泣きついたんだろ?」
聞かなくても分かる、その先を口にすると――悪魔は「それでは半分の正解と言う所です」と、そうでは無いと勿体付けた。
靴型、手型をデシレアが創り、こちらの職人では無く、ミシンを始めとした加工機械の扱いに慣れた、あちらの職人を使ったことで、短期間に量産を達成したらしいが――でも、まぁ……これらは取り留めも無いお話。
詰所でイライラしながら、椅子に腰掛け、俺と悪魔の話に耳を傾けるひとりは、手持無沙汰に、彼らの馬鹿デカい手にも調度良いサイズのジッポ・ライターを弄び、鳴らし続けていた。
その機嫌の悪そうな表情と来たら……今にも忍耐の糸が千切れて『闘諍ダ!』とでも叫びだしそう。
「ええ~っと……みんな。お仕事宜しく……頼むな?」
びくびくと口にした俺の言葉に、それまで――ジッポを鳴らしていたひとりが、一際、大きな音を鳴らす。
それは、まるで日本刀の鍔が鳴る音の様にも響いた。
「大手を振り……なんの気兼ねすることも無く……闘いの場に身を置き続けることができると、聞き及び……喜び……飛びついてみれば……」(ん?)
その昔、森の中で耳にした――ツォンカパの口から漏れ出した、心中を吐露するかのような呟きが、ぽつりぽつりと吐き出される。
「我らを怖れて……誰ひとり、街で騒動など……起こそうとも……しないでは無いか……」




