オークの生存戦略
「で、でもまぁ? 所詮は獣な訳だし? 人間も自分の力より強い生き物は、沢山いる訳だけど、居住圏は比較的大きな訳だし?(いや、この世界のことに関しては、良く分からんが)どーにかする方法もあ――」
「もはや、オークの習わし通りにするより他、無し」
(……そ、そこまで?)
ツォンカパの言う「もはや、オークの習わし通りにするより他、無し」が、なにを意味するのかは聞かされていた。年老いたオーク、不具の者、病の者以外を逃し、残る全てのオークが死兵として、部族の命脈を繋ぐため、最後まで戦うことを意味していた。口減らしまでを兼ねた、オークが、最後に選択する冷徹過ぎる生存戦略。
(……当然、老齢のツォンカパも)
「さて……これで。お前に対する、義理は通したハズだ。あまり時も無い。戦いの備えをせねばならん」
ゆっくりと、傍らのオークが重たそうに腰を上げる。
「……ちょっと待て」
「まだ、何かあるのかツモイよ」
「そのワーグとやらが、襲い掛かって来る時ってのは、何か……決まった条件とか、あるのか? あと数は?」
「……珍しいこともあるものだ。お前が、そこまで戦いに興味を示すとは。この手の事が、嫌いなのだとばかり思っていただけに……少し嬉しいぞ」
(そう思うんだったら、そんな俺をつかまえて、稽古とは名ばかりの拷問にかけないで頂けませんかね……)
「いいから……話せって」
「ワーグ共の数は、40~60ほどだ。やって来るのは、大抵決まって月の見えない新月の夜だ。暗闇を見通す我らオークに、夜の闇は関係無いが、奴らの狩りにおける習い性が、そうさせるのだろう……恐らく奴らもこれまでの襲撃で、我らの呼吸と間合いを計り終えたハズ。次の新月には、我らを根絶やしにすべく、襲い掛かってこよう」
(40~60頭? この森で育ったことで、余所のオークより身体も大きい、力も強いツォンカパたち以上に、力の強い獣が? 明りも差さない夜の森を、俊敏に動き回って襲ってくる? おまけに人間並みに知恵が働く?)




