百千万億 大サーカス
(――終わった)
静かな学生生活は、今終わったのだと……俺は理解した。これからは、きっと大学に来る度に、好奇の目に晒され続け、悪目立ちしつつ、寄る辺なく、あと少しの学園生活を送る羽目になるのだ。
けれども、これは気の早すぎる総括でしか無かった――
「姐さんよぉ……アイスって奴、買って貰ったけどよぉ……早く帰らねぇと、溶けちまうんだけどよぉ……」
「ここが、旦那様の通う学び舎……興味深くはあるが……部外者が、足を踏み入れて良いものか……」
「良いんじゃない? 部外者では無く、あたしも貴女も配偶者の一人な訳だし?」
「御屋形様の故郷のお祭りでは、チーズを奪い合い……オス同士の激しい殴り合いが行われると聞きました。きっと、どこかで……その鍛錬は日々行われているハズなんです。 是非、一目見てみることは……できないものでしょうか……」
「……ここが『大学』わたしたちの言葉で……魔術師のための、または聖職者……軍閥出身の士官のための、最高学府を意味する言葉。……なるほど……だから、ご主人様は、あれほどの魔術の蔵書を……」
「ハト! ハトが一杯おるで! ねぇちゃん! 捕って食うたろや?! なっ!?」
「……せやな。ほな、ヴィルマ……頼むわ」
「お菓子……まだ、あったかのう……。来る途中で見かけた野良は、捕らんのか? 食い出は……あっちの方が、ありそうじゃったぞ?」
こちらの人間には理解不能な、シルウェストリスの言葉。
わいわいと騒いで、やって来る屋敷の面々。彼女たちは無遠慮にも、俺の側までやって来ると――
「……ほら、アンタ。みんな待たせちゃダメでしょ?! 帰るわよ?」
ネルの音頭で俺を――墜落したUFOから引きずり出された、宇宙人か、何かの如く捕らえて歩き始めた。
まるで不登校の小学生か、中学生をクラスの皆で、お迎えに上がるかのような、あのノリのまま。 連れて行かれる俺を――正門に集まった学生の皆は、呆然と声も無く見送り佇んでいた。
 




