アイツじゃあるまいし
晴れない気のまま、バイトに顔を出し――ことの次第をバイトの合間、合間に店長に話す。利己的、極まる理由で、お叱りの言葉を、俺は求めていたと言うのに、話を聞いた店長は、憮然とした表情を見せた後で、静かに倉庫へと入ると1本のワイン・ボトルを手に戻って来た。
「これを持って、その……先生んとこに謝りに行ってこい。あと、しばらくバイトは、来んでいい……。ネルちゃんにも言っとけ」
1本、いくらするのか見当もつかない――トロッケン・ベーレン・アウスレーゼとか言うワインを手渡す店長(……ライヒスラート・フォン・ブール醸造所の畑、ウンゲホイヤーで乾いた果粒を選んで……摘んだ? なんで……この店で、ドイツ・ワイン?)。
ラベルに目を落として――これにお詫びの品としての手土産以上に……深い、ひょっとすれば……好ましくない意味が含まれていたとしたなら、どうしようなどと一瞬、考え込みもしたが……これを手渡してくれた店長の様子を窺うに、それは無さそう。俺って、ホント……疑り深い。
「てめぇで、飲むんじゃねぇぞ」(……ネルじゃ、あるまいし、無いです)
* * *
色々、考えることはあったが、翌日の昼休み。
教授の居場所を方々で、聞いて回り(と言うか、こう言う事こそ、トキノに任せれば良かったのだと、気づいたのは……だいぶ後になる) いつも教授が お昼時には、おられると言う、彼の研究室を訪れていた。
緊張してノックすると、ほんの少し遅れて教授の声。
緊張に唾を呑み込みドアを開くと、昨晩の晩御飯を詰め合わせたような、慎ましやかな、お弁当を食べておられた教授が――少し、驚いた表情で、出迎えてくれた。




