贔屓目に言って、怒っているんです!
冗談じゃない。俺はネルに腹を立てている……多分。きっと。それをアイツが理解するまで、顔を見せてやるつもりは……無い。
自分でも良く分からない、この心境を他人には理解しろと言う――理不尽を押し通そうとする幼稚な俺。
……分かってる。
ネルの奴が一向に、俺の心情を理解してくれないことに対して、気色の悪いことに――乙女メンタル全開で、不貞腐れているだけなのだ。
俺にもプライドの様なものが、あったらしい(つい最近知った。あとついでに、俺の精神の片隅に、乙女さながらの感性が存在したことにも驚きだ)。
そう簡単に考えを曲げるつもりもない。
「そもそもがだ。長いこと連れ添った俺に対して、屋敷の娘共を誰彼構わず当てがって――種を播け、種を播け、子を作れ? ……人を田植え機か……なにかと考えてるのか、あのバカは! ……ふざけるなよ」
怒りに震え、気づけば手にしたフリー・ペーパーに皺が寄るほど、握りしめていた。
「……田植え機」ノートPCのカメラとマイク越しに、俺との会話を成立させているトキノが、画面の中で顔を赤らめて――目を泳がせる「なんだか……表現が、えっちっち……だね……ぱぱ……」
言われて想像してみれば、思い浮かんだのは――中学の体育でやらされた気もする、手押し車を俺とネルが、全身タイツ姿で行っているイメージ。
「……う~ん」ディスプレイの中で宙を見上げ、何かを考えるトキノ「ぱぱが……ままのなにを怒ってるのは……分かったけど……」
(分かってくれるか?! トキノ!)
大して面白くも無い、フリー・ペーパーを放り出し、心強い理解者が現れたことに対して、喜びの声を上げようとしたところ――。
「……でも、ぱぱぁ? それで、ままと顔を合わせないために、このアパートに帰って来たんだったら、意味が無いんじゃないかなぁ……。ここで何日、過ごしても……あっちじゃ……時間、経たないんだよ?」




