雛鳥の口に餌を運ぶかのように
「食事? わざわざ持って来てくれたの?」相変わらずの聡さで、俺が手にするトレイに目をやる彼女「……まぁ、旦那様だしねぇ……手ぶらで、部屋に様子を見に来るなんて……できないわよね。口実代わりなんでしょ? 入って♬」
一から十まで察して見せる彼女。……なんと言うか。自分の薄っぺらい透けて見えるに違いない人柄を、見透かされ過ぎて……こ、こっ恥ずかしい!。
部屋の入り口で顔を赤くして突っ立っている訳にもいかずに――彼女のお招きに与る。
彼女は決闘の場に、姿を見せた時の格好のままだった。服に刻まれた深い皺から察すると、その格好のままベッドに突っ伏していたのか――。
俺を部屋に招き入れ、扉を静かに閉じると、小走りにベッドに向かって腰掛け「勿論、食べさせて下さるのよね? 旦那様♪」
小鳥の雛が餌をねだる様に、甘えた様に口を開いて見せた。
「さっきまでの……お貴族様然とした、お前は一体、どこに行ったんだ……」
呆れて、ベッドの脇のサイドテーブルに、食事を載せたトレイを置くと、彼女は不満たっぷりの表情。
「決闘挑んだにもかかわらずぅ、格好良く負けてぇ~、
「恥を上塗りしてぇ~、
「さっきまで部屋に戻るや、着替えもせずにベッドに潜り込んでぇ~、
「泣き疲れて寝てた所を~、
「決闘で負けた相手のノックで起こされてぇ~、
「あたし……旦那様に食べさせて貰えないなら……お食事を頂きながら泣きだして、スプーンを落としちゃうかも知れないわ……」
俺には、彼女の口へと食事を運ぶ義務があるのだと――そう訴えかける。
「……た、大役……務めさせて……い、いただきます」
俺は、彼女の小さな口へとスプーンを滑り込ませる、なんとも言えない……責任軽微な、お仕事を仰せつかってしまっていた。




