決闘の勝者が言い渡される
――すると、人の頭の中を勝手に読み取っておいて、不満に思ったのか――アルパゴンが講釈を垂れてみせた。
「ソース・ディアブル。悪魔風ソースです、ご主人様。カイエン・ペッパーとマスタードが利かされた、栄えある私たち、悪魔の名を冠するレシピです。お仕えしている私のささやかな満足と、精神衛生のために覚えておいて下さい」(うるさい、黙れ、滅びろ)。
フランス人と言う訳では無いが、こちらの世界に住む皆が、香辛料全般が、高価な物だと言うことを差し引いたにしても、この手の刺激の強い食事に慣れていないことをネルは、心得ていたのだろう――考えて見れば、この屋敷の食事で、カレーが登場したことは無かった。
手にしたスプーンを震えさせるロザリンドの様子は、ここに集まった皆の多くの反応と一致していたが――まあ、レトルト。たかが知れてる。気負わず食え。
最初は、おっかなびっくり、スプーンでメシと一緒に口にして、慣れない辛さに目を丸くしていた皆だったが――異なる辛さ、異なるメーカーの(とは言っても業務用の激安レトルトばかりだが)中身を、一緒くたに混ぜ合わせたお陰か、中々の好評ぶり。
――ただ、俺とヴィルマだけを除いて。
「スシ……スシが……スシが食べてみたかったのじゃ……スシ……が……グスッ……食べてみたかった……のじゃあ……えぅ……」
贅沢を言うなと叱りたかったが、期待を裏切られて、泣きながらカレーを口に運ぶヴィルマを見ていると――流石になんだか可哀想にも思え、黙っていることにした。
次々におかわりを求める娘っ子共を除いて、あらかた皆が食事を終えた頃。その場に集まった皆に対して、今回の馬上槍試合で審判を務めたアルシェノエルから――正式に決闘の勝者として、俺の名前が宣告された。




