思わせぶりに手に持つ薄鈍を
寿司と言う単語に、目を輝かせて興奮するヴィルマ。そして、その反応に期待を寄せて、騒ぎ始める、ウルリーカにヴィヴィ。
俺が適当になにか……そう、晩御飯に困った時の心強い味方、カレー辺りでも作れば良いだけの話ではあったけれど――流石に今日は、もう……そんな気力は無かった。
悪魔が、噛み殺す様に嗤う「どったの?」。
「ご主人様? ここまで出前が……届くとでも?」
……そうだった。忘れていた。忘れることも無いハズのことを忘れていた。
住所ひとつ伝えられない相手に、出前なんてして貰える訳も無い。
仮に受け取りに行くと伝えた所で、この人数用の空になった桶を「後日、お届けに上がりますから」と言った処で、良い顔されるハズも無い。それ以前に――あちらは一体、今、何時だ?。
お祭り騒ぎのバカ騒ぎを繰り広げた後にもかかわらず――その日、俺たちの夕食は、侘びし過ぎる物になることが、この時点で決まった。
* * *
「……まさか、封印されていた……コレを使う時が、来るとはな……」
「悪いことは……言わんのじゃ……。考え直した方が、イイんじゃない……かの……」
「…………」
「コレを……今、使わないで……どうする?」
ボコボコと煮立つ大きな鍋に、俺は金属光沢を湛える物体ををひとつ、ふたつと鍋に投じる。
「し、信じられん……は、始めおったのじゃ……」
「に、に、にい……たま……」
手伝いとして引っ張って来た2人が、見守る中――なんのことは無い。俺はレトルト・カレーを温める。
このショボすぎる献立を皆に提供しなくてはならなくなった事情については……今更言っても仕方が無い。屋敷の人間の中で唯一、全員分の食事をまとめて作ることができるネルが、部屋に引き籠って寝込んでしまった訳で。




