馬上槍を振り抜く
走る馬の勢いの乗った馬上槍の身が、腕の長さの分だけ先に、彼女の胴を捉え――彼女は、くの字に身体を曲げた後、吹き飛ばされ、同時に俺の槍は粉々に砕けた。
皆の口から悲鳴のような声が、巻き起こる。俺は、今この場で選択した行動の自信の無さから、その声に恐怖して目を閉じてしまっていた。
自分の都合を押し通すために、彼女の身を危険に曝したのだから、その資格も無かった訳だが……。
馬のトップ・スピードが緩んだところで馬首を返す。俺の躊躇いを読み取ったのか、その生涯の大半に渡って調教を繰り返されたペルシュロンが、蹄をたたらと鳴らし、円滑を欠く足並みで、手綱に従う。
そして、恐る恐る俺が開いた目には――屋根の上のスコラスチカの腹部の篩板からのほとばしり。
空気に触れるや、繭玉の様になって垣根にデズデモーナを縫い留め――それを良く見えない目で、眉間に皺を寄せて確認するため、悠々と気を失った彼女に近づき、じぃ~と、顔を近づけるスコラスチカの姿が映っていた。
そして、あんぐりと口を開いて、その様子を見上げる屋敷の皆の気の抜けた顔。
俺は、緊張から解かれると同時に、馬のたてがみの中に突っ伏していた。
「おおぉ……ナイスぅ……スコラスチカ……様ぁ……」
* * *
出走して直ぐに俺は、屋敷の屋根の上をしずしずと歩く、スコラスチカの――彼女の異形を視界の片隅に捉えていた。
喧騒を嫌う彼女は、外の様子が気にはなって、特等席から見物しようと外に出て来たのだろうが――やはり鋭い感覚器に、この騒々しさは耐え難かったのだろう。
俺が彼女の姿を目にしたのは――彼女が、このお祭り騒ぎに興味を無くして、屋敷の中に引き籠ろうと屋根の上を歩き、背中を向けて歩いていた、そんなところだった。




