勝機は未だ闇の中
彼女のあの槍捌きにしたって、いずれはミスが発生して、その槍の身が砕け散るかも知れない。粛々と、出走を繰り返せば……きっと!。
そんな薄い望みを胸に馬を走らせる俺だったが、出走回数を重ねるにつれて、彼女の槍が俺の胸の造花に迫る精度は次第に増して行き、造り物の花弁を撫で続けた。
* * *
「……宜しいですか! 御姉様! もし今度あんな真似をなさったら私は! 槍を叩き折った上で自ら命を絶ちます! 手助けなどは要りません! 私は自らの力で勝って御覧に入れます!! ……これ以上! 私に恥を重ねさせないで下さい!!」
凄まじい剣幕で噛みつくデズデモーナ。彼女の剣幕に――今にも泣きだしそうな勢いで、しゃがみ込み、嵐が通り過ぎるのを待つネル(……良い薬だ。もっと言ってやれ)
幾度目かのチャージで交差する瞬間、俺のペルシュロンが、急に走るのを止めて、尻尾をふりふり――おもむろに垣根に顔を突っ込んで、生えていた草を悠々と食み始めた。
何が起こった! どころでは無かった。交差する僅かな瞬間に、俺の甲冑と盾の隙間の白い花を狙う精度を見せるデズデモーナの槍捌き。馬が止まってしまえば、彼女の槍は確実に的を貫いてみせるに決まってる。
こ、このタイミングで?!。
馬に言うことを聞かせようと慌てていると、その答えは血の巡りの悪い、俺の頭でも直ぐに思い至った(ね……ネルの奴かあぁぁ!?)。
一向に決まらない勝負に一人じれたネルは、自身の司る力を発揮して大胆な妨害に出たのだろう。方法の特定こそ、できなかったが――例えばアイツが事前に……それこそ、夜の内にでも「馬さん? 馬さん? お願いがあるんだけど?」とでも頼み込んでいれば、なんらかのサインをここで一発かますだけで、馬は頼まれた通りの行動に移って見せるだろう。




