間を計る彼女
俺の考えは……読みは――当たらずとも、遠からずと言ったものだったらしい。
互いが走らせる馬がすれ違う、槍が届く距離に入ると、彼女は最初の激突を見送り、槍が俺の甲冑に当たって砕かれることを避けるため、穂先を上に向けて通り過ぎた。
(……やっぱり、分かってる訳だ)
昨日、今日に馬上槍を手にした俺とは違い、その何十倍もの時間を研鑽に打ち込んで来た彼女だ。当然、分かっているのだろう。勝負は、やり直しのきかない1発勝負であることを。
……そうなると。彼女が慎重になればなるほど、こちらと彼女の槍がぶつかり合い、彼女の1本しかない槍を砕く機会も、出走を繰り返す回数に比例して大きくなる。俺がこの争いを無事に丸く収める可能性も充分有る。
見えて来た明るい見通し。しかし、彼女は――そんな甘い見通しを許してくれる様な、軽い相手では無かった。
* * *
出走3度目。早くも痺れを切らせた外野のウルリーカから「さっさと、ぶつかり合いやがれ!」とヤジ。
勝手過ぎる、そのヤジが勘に障った俺は、あとでスキュデリに言って、とっ捕まえさせて「全身に低周波治療器でも貼り付けてやろうか……」などと考えながら、盾で胸の造花をそれまでと同じ様に庇って、デズデモーナとのニアミスに備えていた。
ニアミスの直前、彼女の動きに大きな変化。
鐙から足を抜いたデズデモーナが、疾走させている馬の鞍の上に立ち上がる。そして、互いの馬がすれ違う刹那。
まるで、水中の魚を狙い、放たれる漁師の銛の様に。俺の甲冑と盾の隙間に咲く、白い造花目掛けて、彼女の槍の穂先が一直線に最短距離を滑り込んで来る。
 




