な、泣いてねーしっ! ……と言うアレ
ようやく上体が起こせるまでに回復した俺は、様子を窺った。ツォンカパは……と言うと、そばに積み上げたままだった、先日の土堤の資材の上に腰を下ろして、力無く地面を見つめている。
「……ど……どーした、どーしたぁ……ツォンカパぁ……ちんたら……してる間に起き上がっちまうぞ、俺ぁ……」
自分でも、寿命を縮めることが分かり切っている、カラ元気。
声を耳にして、ツォンカパは我に返ると、申し訳無さそうに こちらに首をめぐらせて――
「……剣を手にしている最中に呆けるとは。相手が立ち上がれなくなるまで、手を緩めるなと教えたのは、我であったのにな。無礼をした……。今より、何層倍もの手数を見せる故……赦せ」
「……そんなことは、ど、どーでもイイんだよ」
「よし。それでこそ……」
「いや、このイイは『何層倍もの手数』の方を指して、どうでもイイと言っているのでは無くてね?『要らない』の意味な? お詫びとか要らない。そんなお詫び……要らない。そこを勘違いしたらいけないぞ? ダメだぞぉ? ダメっ。メっ!」
──この、手加減が手加減になっていないオークが、容赦無く打ち込んで来る前に、必死に話題を方向転換。
「……で? どーしたんだよ? ツォンカパ? なんだか最近、変だぞ? 初めて会ってしばらくの頃、いきなり泣き出した時みたいだったぞ……」
「オークは生まれた時に、母の腹の中に泣き声を忘れて、産まれるものだと話したハズだ。断じて泣いていた訳では無いと、何度言えば分かる。くどいぞ。あれは眼球を蜂に、7~8回刺されただけのことだ」
(……おおごとじゃねぇか。良くそれで今も、目が見えてんな? オイ)
心配してやったと言うのに……。面倒臭いにもほどがある。
「あんたが、そんなじゃ稽古にもならないだろ……。どーしたんだよ?」
「……………………」
俺のそんな声に、答えるでも無く。
「……お前が、我が部族のオスであったならば」
そう小さく呟いて──その日も、何も言わずにツォンカパは、森の中に消えていった。




