敵は、熱い内に討て
こんな自殺まがいの生身で、試合に臨もうなどと言った輩も居なかったことから、その辺りは完全に自己責任として、これまで明文化する必要も無かったのだろう。
「決闘開始の合図を」
デズデモーナに促されるも、普段怜悧な物言いで、冷静な判断をいつも下すアルシェノエルが、珍しく躊躇う様子を見せていた。共に苦楽を共にした仲間が、自殺同然の条件で決闘に挑もうと言うのだ。彼女たちの死生観をおいても仕方無い。彼女の様子に苛立つかのような声を上げるデズデモーナ。
「アルシェノエル……フィオレンツァ……バルテルス……ガルムステッド……公爵家令嬢……貴女まで、……貴族として生まれた私の矜持を踏みにじると言うのですか!?」
その声の迫力に――アルシェノエルのみならず、周りに集まった多くの人間が肩を竦ませた。……勿論、チキンな……俺も。
声に押され、腹を決めたのか。アルシェノエルは、決闘の開始を宣言した。
* * *
決闘は、屋敷に沿って庭との垣根として植えられた、馬の膝くらいの高さに茂る、丈の短い植え込みを――車道中央の分離帯の役割を成す、柵に見立てることで開始される運びとなった。
(……別に。慌てて決闘なんてしないでもさ? ……頑丈で立派な馬上槍試合の場ができるまで俺は、何年でも待つよ? 10年でも20年でも待っちゃうよ? その間に気が変わることもあるかも知れない訳だしさ……いっそ、こちらの世界のさ? 有名建築家様をお呼びしてさ? 作っちゃおうよ、試合会場を。資金の調達から始めるから、更に長くかかっちゃうかもだけど……いいぞぉ~? これ)
つまりはそう言うことなのだろう。この拙速過ぎる決闘までの期間の短さは。
決闘に臨む人間の心変わりや、逃亡を防ぐためのものなのだ……。




