泥縄レッスン開始!
コーチは、ロザリンドが務めてくれることになった。
「デズデモーナの気持ちを思えば、考えるものもありますが……」
些か……躊躇う様子を見せた彼女。けれど、ずぶの素人が、馬を走らせる危険性に居ても立ってもいられなくなったのか
「旦那様には……先日の試合で、ご助力頂きましたにもかかわらず……お礼も、まともにしておりませんでしたものね。お引き受け致しますわ」
渋々と言った感じで、彼女は指導を引き受けてくれた。
馬場で物騒なまでに空気を揺らめかせて、ラジオ体操を踊って準備体操をしていると、その様子に尻込みするかの様な表情を、やって来たロザリンドが窺わせる。
俺のいでたちたるや、神代の時代の叙事詩にでも登場する英雄か――はたまた怨念を身に纏って、地の底から蘇った魔王か? ってな具合のそれな訳で、彼女が俺を目にして気後れするのも、分からないでも無い。
例えるならば、デートに最新鋭ジェット戦闘機でやって来た、頭のオカシイ輩と、そう大差は無いだろう。
おべべは立派でも、中身はこれっぽっちも伴なってはいないけどな!。
「そ、それで……だ、旦那様? その……失礼ですけれど鞍数の方は、どれくらいになられますの?」
(……鞍数? う~ん……なんだっけ? 鞍数……鞍数……鞍数……そう言えば昔……おやぢの野郎に……競馬場の馬券売り場で教えて貰ったことも……ある様……な? ああ、そうか……馬に乗った時間のことか)
ラジオ体操を止め「えぇ……っと?」指折り数える。
普通ならば――現世であれば、45分~1時間を一鞍と数えるのが、普通らしいが……。
時計の普及も怪しい、こちらの世界。時間は、教会が管理する時計塔の報せる鐘の音頼みのこちらのこと。
彼女が訊ねているのは、きっと。……そこまでの精度に基づく時間の話では無く……もっと、どんぶり勘定での大雑把なものに違いない。
「……う、う~ん。これ……くらい……かなぁ?」
 




