調印式 なんだか……チャンピオンに挑むボクサーの気分
「決闘」と言う血生臭いイメージに反して、取り決めを交わし、それを文書化して、署名を行う際などに流れる空気は――粛々として、どこか事務的ですらあった。
「決闘の内容は、ツモイ辺境伯によって、馬上槍試合による一騎打ちが提案された。男女の身体能力の差を考慮してもなお、騎士としての修練を積んで来たリリェフォッシュ伯爵家令嬢殿とでは、実力に差があり過ぎることから、公平を期すため、かつてエヴドキア・ガロワ公が制定された馬上槍試合に関する法の範囲で、こちら側でいくつかの案を考えさせて頂き、まとめたものがこちらになる。目を通し異論がなければ、一番下に署名を願う」
テキパキと俺とデズデモーナの前に文書を差し出すアルシェノエル。デズデモーナは、受け取るや、直ぐに文書に視線を落とし記された内容に目を通し始めた。
彼女はこの部屋に入って以来、一度も俺と目を合わせてはくれなかった。
「ツモイ辺境伯……」アルシェノエルから文書に目を通すように促される。
(ええぇ……っと、なになに?)
文書に視線を落とすと――これでもか、これでもかと、俺に有利な様に便宜が図られた、ハンディキャップ・マッチの内容の全容が書き連ねられていた。……いや、違う。
それでも、なお俺と彼女――デズデモーナとでは、勝負が成立するかどうか分からない程、実力に差があると言うことなのだろう。
文書に記された決闘の内容は、こう言うもの。
馬は、審判が選んだ馬を双方用いる。審判は、この決闘で用いられる馬を、できる限り公平になる様に、同じ馬体の馬を吟味し、選抜する。
お互いの馬に対して攻撃を加えてはならない。
用いる槍は、同じ長さ、同じ重量のもの(デシレアが供与してくれているトウモロコシの澱粉で形成されたもの)を用いる。




