彼女が望むデュエルを
――皆様が納得頂ける形ってなんだよ。俺は、その血生臭い匂いしか感じない「決闘」とやらを、仮にも屋敷で一緒に暮らす、デズデモーナとやらなきゃいけない状況が嫌で、こんな腰も砕ける茶番を真顔でやってのけたと言うのに。
押しかけた女たちの様子を覗き見る。どうやら、これに異を唱えることは、許されない雰囲気「……分かった……よ」。
項垂れて、俺が了承すると――女たちは、喜びの声を上げるでも無く、落ち着きを取り戻した様子で、部屋を静かに出て行った。
扉の壊れた部屋に残された俺と悪魔。
「くくっ……どうしましょうね? 御主人様? いっそ……逃げちゃいます?」
……分かってる。この悪魔が今、口にした魅力的過ぎる言葉が、本物の悪魔の甘言であることは……分かってる。それでも、その言葉に跳び付こうとする心を、グッと堪えるために俺は、並々ならない労を要求された。
ここで……もし、この悪魔の言う通りにした日には……。きっと、次に襲い掛かって来る厄介ごとは、これの比では無い物になっているに違いないのだ。
脳裏に浮かぶ――絶望に自らの命を絶つデズデモーナのイメージ。これを飛躍し過ぎと笑い飛ばせる状況であったなら、どれだけ良い事か。
俺を眺めて、いつもの嬉しそうな表情を浮かべる悪魔。
「もう……寝る……」そう言い残して――先ほどまで、爆発しそうなほどに騒々しかった、私室を後にした。
 




