デンジャラス・トレーニング
「まぁ、でも? アンタが暮らしてた世界では、100年以上前にレンネットは合成されて、普通に流通してるみたいだし? そこまでグロくもないんだけどね」
「なんだよ、それ」ネルのつけたオチに笑って、文句を垂れる「だけど、なんだろな? その黒い獣って……。ツォンカパも、なんだか様子が少し変だったし……」
「ツォンカパさんが?」
「おかしなことに今日は、何ひとつメニューも言わずに帰って行ったんだわ……。いつもならオーバーワーク? なにそれ? って、くらいハードワーク押し付けて来るのに」
「ふ~ん。珍しいこともあるものね」
「ひょっとして、そろそろ歳でボケたとかだったりな」
我ながら、不謹慎なことを軽々しく口にしたもの。
「でも、ツォンカパさんがボケたとなると……。アンタの身が、一番に危ないんじゃない? 分別無く暴れ始めでもしたら大変でしょ? ブレーキが壊れたダンプと変わらない気がするわよ?」
「……………………」
久方ぶりにネルの一言に、凍りつかされた瞬間。
* * *
先日まで作らされた土堤は、なんだったのかと問い詰めたかったが、期待した投擲の練習は、無期延期とばかりに、お預けされてしまった上で――急遽、その日の稽古は長剣の稽古に変更されてしまった。
……グッバイ。痛くも辛くもない稽古。
理由なんて気分? と言った程度のモノかも知れなかったが、腹を立てて食ってかかりたい所ではあったものの、このオークの様子がおかしいのは、明らかで──
そんな様子の、ツォンカパにどう接すれば良いものかは少々、悩ましかった。
──刃引きもされていない長剣での稽古。
剣はかつて、ツォンカパの先祖が、部族間紛争で、戦利品として巻き上げたものだと耳にしていた。
オークのために実用本位で造られ、剣身にはハンマーで鍛えた際に付いた、鎚目がそのまま残っているような──無駄な装飾など一切存在しない、無骨で肉厚の剣。




