泣いた龍が、もう笑う
『門』を使ったとは言っても、2時間も経たなかったのは、お早い帰りと言って良い……ハズ。
実家で何があったのか、乱れに乱れた髪を手櫛で撫でつける、彼女の言葉に依るならば――今後、今回の様な件は起こらないだろうとのこと。良かった良かった。
そんなこんなで。あと残すは――『門』を通じて雪崩れ込んで来た方々の対応を残すのみになった訳だったが……。いや、まあ……お引き取り頂けば良いだけか……別に。
ぶーぶー言うのは、ウルリーカにヴィルマくらいのものだろう、きっと。
* * *
「……先日は、私の一族の、あまりにも浅ましく、恥ずかしい行いに対し、旦那様……御姉様ともに寛大な御取り計らいを頂きまして、言葉も御座いません」
――翌日――
熟成室に戻ったチーズたちを怒涛の勢いで、好ましくないカビが生えていないかどうかを、午前中までに確認し終えると――デズデモーナは、俺が用意した作業着を脱ぎ捨てて、屋敷に戻り――正装に着替えてから、俺とネルの前に姿を見せた。
貴族然とした礼法に則った立ち居振る舞いで、俺であれば舌を噛みそうに思う長ったらしい口上を口にした後で改めて、深々と。先日、実家が企てた事に対しての謝罪を述べた。
「良いのよぉ~♪ デズデモーナ♬ 同じ巣に住むメス同士じゃなぁい。気にして無いわ」(なにをニコニコしてやがるんだ、ネルの奴……)
こいつが、こう言う……ご機嫌な表情をする時は、ろくでも無いことを言い始める時だと相場が決まってる。
おまけに『気にして無いわ』? 大嘘を吐くな。酒蔵のお気に入りの酒に手をつけられたことが分かるや、泣き叫ぶだけ泣き叫んで――
『べ、ベルタに頼んで……三千世界諸共……消し飛ばしてやるわ……』
とか、そら恐ろしいことをペロっ♪ っと、涙目で言ってやがったクセに。




