大丈夫だろうか
目の前に、かしづく巨大な岩の塊のような彼の様子に、おっかなびっくりするように、俺にしがみつくトーヴェ。点呼の結果、こちらに『門』を通じてやって来た連中の全員を支配下に置いたことを――いつもの酷い吃音で教えてくれた。
「……で、トーヴェ?」支配下に置いたと言う言葉が、もう心配で心配で仕方が無い「あの人たちって……ちゃんと……元に戻るのか?」
見れば、トーヴェの魔器の支配から抜け出そうと、今も呻くような声を上げ――身じろぎひとつ、もがく事すら、できない身体を必死に動かそうと頑張っている……らしい、皆様方。
アンティグアで、メトレス・マリアの教会で目にした悲し過ぎる肉のゾンビたちのことを思い出し――俺は不安で堪らなくなっていた(……あれは、ツライ)
「……こ、こ、こ……壊っ……壊し……壊しちゃ……た方が……良い?」
小さな赤い瞳を揺らめかせる彼女に――その日、何度目かの「ダメ」を口にすると、トーヴェは彼らに対しては、今は身体の顎から下を支配するに留めて、精神にも手を加えていないことを説明してくれた。
「……それでツモイ。アレらは一体、どうする?」(来た……)
敵には情けなど微塵も無い、オークの彼らの価値観からすれば――まあ、当然の質問。俺は少し考えて、彼の腑に落ちるであろう言葉を探し出す。
「隷従させる」
亡きツォンカパのかつての台詞を思い出して、そのままに――できる限り、あいつの声音のデスボイスを、しかめっ面までをも真似たつもりで。
けれども、お世辞にも似ていたとは言い難いのは……まぁ分かってる。
しかし、ハリバドラは、その答えに満足そうな笑みを口の端に覗かせると
「……流石は、ツォンカパの弟子。仕込みが良い」
そうとだけ口にするとーー厩舎に馬を繋ぎに行って、戻って来た村の若い連中と、お役御免とばかりに森の中へと帰って行った。




