キレて、いらっしゃる?
語らい、森を進むと――直ぐに屋敷の側まで辿り着いた。
トーヴェは、自身を言い倣わす色、白銀の光を手の中に興すと、その中から1丁のヴァイオリンを取り出す。
デズデモーナの家から、人が送られてくると聞いたその日。不安になった俺は、ネルにどうしたものかと相談を持ち掛けていたのだが――その時の彼女が言ったセリフが
「ああ、別に心配要らないわよ? トーヴェに任せれば、何も問題無いわ」
そんな心強過ぎるものだっただけに、やることをやってしまった後は、実に今日まで、問題を頭の片隅に思い浮かべることすら無いレベルで、先送りに先送って見せた訳ではあるけれど――ヴァイオリン?
なにをどーするの? これで?。
目が点になる俺を気にすることも無く、義妹はヴァイオリンを顎と肩で挟み、弓を手にすると、俺を上目遣いに見ながら
「ぜ……ぜ……ぜ……全員……こ、こ……こ……ころ……殺さ……ない?」
(……この優しい子が、日に2度も物騒なことを……。余程、腹が立っているんだろーな……。どーしたもんかな……これ。なんかケアとかしてあげた方が……良いんだろうか)。
「殺さない。ダメ、絶対、めっ!」
俺が、彼女に聞かれた狼藉者たちへの対処についてを告げていると、先程の彼女が発した光に気付いたのか。巡回していた兵が、松明を片手に声を上げ、こちらへと近づいて来る。ホルスターに吊ったリボルバーの一丁に、自然と手が向かう。
しかし、俺の……そんな緊張から出た行動は、無用のものでしかなかった。
トーヴェがヴァイオリンに、そっと弓を当てると、耳にしたことの無い……けれども、どことなく懐かしさを感じさせる曲が奏でられ――そして、それは屋敷の周りの森の木々に優しく吸い込まれていった。




