浮かれて実家へ帰る伯爵令嬢と、不安になる俺
目が覚めた時に、彼女のあの生気を感じさせない目が、顔の側にあったりしたなら……割りとショックな気がしないでもないのだが――などと失礼なことを考える俺を余所にアルシェが、彼女に今までの話を掻い摘んで説明。
それを聞いて「なるほど、なるほど」と頷く彼女。何故か俺の首に巡らされた彼女の腕はチョーク・スリーパーの形に(……な、なんで? ……し、死ぬっ!)
「なら簡単じゃない。あたしが実家に話をつけてくれば、それで解決しちゃうわよ♪」
徐々に締めつける腕に力を込める彼女に必死にタップ――しかし、解放して貰えない。「タップ」の意味を理解できないのではと顔を真っ赤にして、心配したが……そういう訳でも無かった。
「これは……リュシルと。巻き上げられた、あたしのお小遣いの分♪」
* * *
翌日、彼女――デズデモーナは朝早くから、ネルに大量の手土産を持たされて「久しぶりに可愛い弟と1日過ごしてくるわ」と鼻歌交じりで実家へ。
夕刻、上機嫌で屋敷に戻って来た彼女は、首尾が上手く行ったことを告げた後に、現当主である彼女の父親からの書簡を携えてきた。
内容は無駄に長い挨拶と、領民の方々、3万人をこちらへと送ってくれると言うもの。
「……さ、3万?!」驚きの数字。彼女が……どんな手品を使ったのかは知らないが――不穏なものを感じて、浮かれ調子に弟と過ごした時間について、語って聞かせてまわる彼女を窺い見る。
だって、精々良くて数百人くらいの人をこちらに向かわせてくれるのかなぁ~って、思っていたんだもの。桁が違うんだもの。
なんかの暗喩かとすら思っちゃう。宣戦を布告する的な……。




