賭博伝 ヒトトセ
まるで、この悪魔を側に置く、俺に対する皮肉にも聞こえる言葉。
悪魔は、俺の考えを直ぐに読み取るなり「さぁ~? それはどうでしょうね」と、とぼけてみせた。胡散臭さしか漂って来ない。
「ご主人様?」ここ最近のささやかな楽しみ、一人での散策を邪魔された上、不快な悪魔の嘲りに付き合わされた俺は――悪魔が化けた老婆をその場に残して、屋敷へと戻った。
* * *
いつものように文句のつけようの無い、ネルが作る夕食を皆で摂った後で、屋敷をうろついていると、貴族の娘たち4人が、先日、現世で購入して来たトランプに興じる場に、ぱったりと鉢合わせ。
壁際の龕の様なスペースに、持ち出された小さなテーブルに積み上がる捨て札。
ゲーム内容は……ババ抜きだろうか? 相変わらずの死人の様な眼差しのピエレットが差し出す、扇状に広げられた手札を前にして……眉間に皺を寄せて、唸るデズデモーナ。
「……さ、流石は……ピエレット……表情から手札を読むことは……できそうにない……わね」
そして、ままよ! とデズデモーナが手にした札は――彼女にとって、有難いものでは無かったらしい。
テーブルに突っ伏して、崩れ落ちた彼女は、蚊の鳴く声。
「……お、お小遣い……稼ぐつもりでいた……のに……」
「――貴方もひとつ……如何だ?」
アルシェノエルからのゲームのお誘い。そう言う気分でも無かったが……。夕食前に入浴を済ませる彼女たちの、湯上りの香りに囲まれると言う、わりと背徳的な誘惑には、なんだか少しだけ……いや、だいぶ抗いがたく――俺は、お言葉に甘えて同席させて貰うことにした。
そんな俺の様子を察した様に――場所を空けると言うよりも、気色の悪い生き物から離れるかのような感じで、俺から席を離すリュシル。




