小心者な俺のアリバイ工作
「そんなもの……なんでもあげときゃ喜びますって」呆れた口調のアルパゴンが溜息「ビーズでもガラス玉でも、構いやしませんよ。……私、先日から、ひっじょ~うに忙しいんです」
屋敷に逃げ帰った俺は、後付けのアリバイ工作がてら。ゴブリンの「黒い汚泥」と約束した贈り物について何が良いのか、悪魔に相談していた。
「いやね? 事実、そうかも知れんけど。ここで俺が聞きたいのは、懐柔策の一環としてだ? その……なんだ? あいつらにとって、こちらに組したくなる、こちらからすれば、その懐柔工作で最大効果が得られるような……だな」
「おお……私は影を量産して、なお忙しく、血を吐く過剰労働に勤しんでいるというのに……この御方は……この御方ときたら…………」
廊下に崩れ落ちて、カーペットに爪を立て、掻き毟ろうとするかのようにして悪魔が呻く。
「何をおまえは『忙しい忙しい』って駆けずり回ってんだ?」この悪魔のアンティグアでのお買い物の話を聞いて以来、少し神経質になり過ぎていたのかも知れなかった。気遣わしい故に口をついた言葉とは言え――失言だったらしい。
「……お聞きになりたいですか? どっかの誰かサマの無茶振りのお陰で、バカみたいな短期間で、領内のインフラ工事に駆けずり回る、この悪魔から何をお聞きになりたいですか?」詰め寄る悪魔の迫力に押され「……あ、な……なんか……マジで、スンマセン……」たじろぎつつ、詫びる俺。
「人間の魂を狩り集めるなり、魔素をザブザブ浪費してであれば……この程度のこと瞬く内に、成してみせも致しますが……。人の魂は奪ってはダメ、魔素は希薄……おおおおおっ、流石の私も……哭いてしまいそうですとも」
俺の領地運営ノウハウの皆無っぷりを穴埋めするために――この悪魔なりに、契約を厳守しつつ、夜討ち朝駆けどころの話では無い、人類では不可能な一部の遅滞もなければ、意思の疎通も必要なく、齟齬も無しに24時間、フルタイム労働で働く悪魔。……流石に、ちょっと可哀想な……気もしないでもない。
 




