でも、命のやりとりは……しないよ? しないしない
これらの知識と技術は、未開の蛮族のそれではなく、オークが高い教養と、知性と文化を併せ持つ種族であることを、俺に痛切に知らしめた。
彼らはただ単に、実用一点張りの合理主義者で、無駄を嫌うため回りくどい言い回しや、社交辞令を好まず、人間を含む他の種族から──粗野で、ぶっきらぼうで野蛮であると、勘違いされているのだろう。
勿論、武勲を誉れとする、好戦的な種族であることは否定のしようもなく、その点さえなければ、愛すべき隣人と言えるに違いない。
そんな訳で、トレーニングを通じて、様々な手ほどきを受けるようになって──何年かが過ぎた頃。俺は、このオークと言う種族と、その頃には師として仰ぐようになったツォンカパに対して、親しみすら感じるようになっていた。
もっとも……だからといって、この見上げんばかりのオークの願いを聞き届け、彼が乞い願う、命のやりとりを演じてやろうとは──これっぽっちも思わなかったが。
いや、「だからといって」ではなく、「それだけに」といった方が、体裁が良いのか?。 ……良いな。ウン。言いなおそう。「それだけに」……だな。
* * *
その日、俺は指示されたメニューであるところの――丸太をノコギリで、ごりごりごりごり……。
延々と厚さ20㎝幅で、カットし続ける作業に、汗を流し続けていた。
なんでも……このスライスした丸太の年輪側を外に向け、土堤を覆うように埋め込んでいけば、短剣や斧、投げ槍を投げる練習の良い設備になるとのこと。
あと手首と握力と、背中の筋肉も鍛えられて一石、二~三鳥なのだとか……。
その辺は、怪しいものだったけど──黙って、指示された通りに作業を続けていた。なにせ疲れはしても、このトレーニング。痛い思いをしなくて済むことが、なにより大きかった。
それに、この設備が完成しさえすれば「投擲」。
そう、この次に待っているのは、大して痛くもきつくもないトレーニングが待っている。
テンションも上がろうというもの。




