別に気にもしないけど?
「ちょっと良いか?」
間としては頃合いかと考えた俺が、彼女たちに声をかけると、皆一斉に驚いた声を上げて、緊張に身体を強張らせていた。
「……なに驚いてんだよ?」
「い、いや……あのですね? これはその……あたしたちが皆で、お互いの得意とする魔術の授受を一通り終えて……次、なにをしようかなぁ~と、していたら『この子』が……ですね? 興味深そうに、こちらをじぃ~っと……見ていましたもので、退屈しの……ぎと言う訳ではありませんが、試しに手解きをしてみたらですね……」
しどろもどろに三白眼を泳がせ、聞いてもいないことを あたふたと必死にアスタが釈明。
「そう。それは良いとして、ヴィヴィの奴……知らね?」
長くなりそうな気配に先んじて、用件を告げると彼女たちは一様に、呆気に取られた表情。
「お、怒らないの……?」
普段、気の強いゲルダが躊躇いがちにーー
「いや、別に? なにか、どうかしたの?」
* * *
きゅっと、下唇を噛みしめて、艶ぼくろを口に寄せるかのような――叱られる覚悟を決めた表情を見せた後で、イープが口を開く。
「わたしたちは、秘されてしかるべき……魔術の一端を……この子に、伝えた……罰を与えられるべきことをした……」(ああ、そう言うこと……)
秘儀・奥義と呼ばれる魔術に関する知識を勝手に漏らしたことを咎められると、彼女たちは思っている訳だ――正直、どうでも良いと言う感じでしか無い。
(そして、俺がヴィヴィの奴を探す理由はもっと! ……どうでも良い)
しかし、これがまた……後々、無駄に面倒臭いことに発展しても困ると言えば困る。
屋敷の中の空気が澱めば……どうせ、その風通しの便宜を図るために俺がまたーーわりを食う羽目になる。
このゴブリンにしたってそうだ。どの程度の魔術を身に着けたのかは知らないが、こいつが、それにモノを言わせて、悪さを働かないとも限らない。
(まあ、俺たちを……どうこうしようとするのは……確実に無理に違いないんだが)
 




