トイレ休憩の無い高速みたいな
俺が頼むと、いつもの軽い口調で請け負ってーー蜘蛛の下半身の前二対の第一脚を、獲物を捕らえる蜘蛛そのままと言った様子で、大釜の縁にかけ、乗り込んでいた魔術師の娘っこたちを、順番に地面に降ろしてくれた。
屋敷に向かって顔を赤くして走り去るゲルダを「あらあら」と、スコラスチカは愉しそうな声を上げて見送る。そして、最後の搭乗者のアスタが降ろされると、大釜はゆっくりと地面に軟着陸。
「……格好良すぎて、一瞬で見えなくなったじゃねえか」
残った2人に、呆れた声をかけると
それでもヴィヴィは誇らしげに「せやろせやろ♪」と宣い、アスタは眼鏡のフレームを指先で、くいっと直し「……語りたいことは尽きません……が! ……あたしは、い……急ぎ……こ……この! 下腹部で渦巻く、力の奔流を解き放ちに……ほうにょ~ぉぉっ……に向かわねばなりま……せん! 御免!!」
(……要らんこと言ってないで、とっとと行けよ)
地上に降りた大釜をスコラスチカと一緒に物珍し気に観察する。ーー見て分かる範囲では、至って普通の鋳物の大釜でしか無い。
昔、社会科の教科書に載っていた南部鉄器を思わせる味のある色合い。今の今まで、これが空に浮いていたと言うことは、信じられないことではあるものの
小学校の頃、学校の図書館に置かれていたナウシカの原作に登場した――飛行甕のイメージが、記憶の片隅に残っていたこともあって、さしたる違和感も無く、受け入れること自体は……まあ、できた。
「……で? これをどーすんの?」
これを引っ張り出して来た理由を訊ね、ヴィヴィに顔を向けると彼女は、俺が初めてみる表情を浮かべ――足元に水溜まりをこさえて、たたずんで……。




