鍋魔女
ヴィヴィにお誘いを頂いて、面白い物が見せて貰えると言われ、屋敷の外へ。
力仕事をクィンヒルデとスキュデリに頼んで、魔女のばあさんの家から運び出される大鍋。……いや、大釜なのか?。
黒錆を纏った――直径は2メートルはありそうな鉄のそれを、
魔術師の娘っ子共が総出で、手に手に雑巾を持ち、鼻歌交じりに拭き上げていた。
一仕事を終えて、額の汗を拭っていたスキュデリに、これから何が見せて貰えるのかと、訊ねてみてもーー
「さぁ? 魔女と言えば大釜ですし。飛んで見せてくれるのでは無いでしょうか?」
と、彼女も少なからず期待した声を――って、魔女と魔術師の違いってなんだ? それ以前に魔女って言ったら、飛ぶ時に使うのは箒じゃないのか?。
彼女に聞いても仕方の無いことにもかかわらず、質問責めにしていた。困った表情を浮かべ、引き攣った愛想笑いで、たじろぐスキュデリ。
「ウチらは魔術師で、おばちゃんが魔女や♬ なんでって聞かれても知らん」
大釜の手入れに飽きたのか――ひとり、作業の手を止めて、くるくると雑巾を指で弄ぶヴィヴィが、そう説明した。
「今、スキュデリと話してたんだけどな? ひょっとして……この釜で飛んで見せるって、出し物のお誘いだったのか? 魔女が空を飛ぶのって箒じゃないのか?」
質問の矛先を彼女に変えると、ヴィヴィは少し、がっかりした表情。
「……つまらん。つまらんでぇ……旦はん。……折角、びっくりさせてやろう思うたのに、なんや察してみせとるし……。そこはやな? わざとらしくでも、ウチらが、飛んでみせた所で『エライ、びっくりしたで!? すごいやん?!』って、驚いて見せるのが、礼儀っちゅうもんやで――ん? 魔女が飛ぶんは、大釜でやんなぁ?」
一通りの文句を並べ立てた後で、スキュデリの長身を見上げて、飛行する魔女の小道具についての相槌を求める赤毛。




