チートな領地在り〼
部屋とバルコニーを隔てる扉を閉め切っていたお陰で、ノックの音を聞き漏らしていたらしい。
鍵が掛けられていなかった部屋の様子を――隙間から覗く様にして、おずおずと部屋に入って来た義妹が、バルコニーの扉を開いた。
倍速モードの動画の音声を思わせる、陶片の娘たちの声が、激流となって押し寄せて来る。
「おにーちゃん? トーヴェちゃん見なかった?」
妹の居場所を聞く、お姉ちゃん。
「……いんや。見て無いけど……どうした?」
この子たちは感覚は、大体において共有されているらしいが……それが機能していないと言うことは――あの子も一体、どこで何をしているのやら。
用件をなんとは無しに聞いてみれば――無いと不便であるからと、彼女が作った衛星を抱えて、妹に宙へと運んで貰うつもりなのだとか。
颯爽と立ち去る彼女を見送った俺は、バルコニーで空を仰ぐ。
(人工衛星まで、浮かべんの?)
* * *
「先日の無礼は、手前勝手にも……モノを知りもせぬ、小娘の戯言であったと何卒、ご容赦戴きたい……」
屋敷の片隅の馬場にて。
あちらの世界の技術で造られた、トウモロコシの澱粉で形成され――命中するなり、木っ端微塵に砕け散る馬上槍の具合を確かめる、彼女たちの様子を見に来た俺に、アルシェが貴族の礼法にのっとった謝罪を申し入れて来た。
「俺が……なにかをして見せた訳じゃあ……御座いませんことよ?」
何度目かのチャージで、兜のスリットから入り込んだ、馬上槍の破片に塗れた、ポリカーボネイトのグラスを指で拭う、ピエレットを眺め、言葉を返す俺に、意地の悪いものでも感じたのか――アルシェは、少しだけ気を揉む様な仕草。
「いや、これっぽっちも皮肉では無くてね? 本当~に! なにもしていないから」
そう、いつもの事ではあるけれど――思い返せば、こちらにやって来てからも、この俺が何かを成して見せたことなど、何ひとつも無いのだ。自分の不甲斐無さに、項垂れる
 




