そして、義妹が動いた
しかも、斬れ味抜群で石材も木材も、恐らくは鋼材でさえも関係無く、滑らかにカットしてのける――ここまでくれば、本来の用途は、建材の加工に用いられた道具だったのでは? ……とさえ思えるクィンヒルデの魔剣ウーラガンドがあって、これ。
「……む……むぅりぃ……これ……絶対…………無理だぁ……」すかさず見事に、へこたれてみせる俺。そんな俺を有栖川さんは、なだめつつ話を続ける。
「勿論、この全てを一気に開発するなど、投下資産の効率の点から見ましても、非効率極まりないこととなることでしょう。ですので、小規模な、極小規模な、資産投入を行う所から、始めることを御提案申し上げます」(有栖川さん……なんか、時々……あなたが、神様に見えるのは気のせいですか?)
彼の後光に目をやられて、崇拝にも似た視線を向ける俺に「滅相も御座いません」と、笑顔を浮かべると、彼は話をさらに先に進めた。
「その様な訳で……ここはひとつ如何でしょう? これらのマークの地点に開拓村……それより、さらに小さい規模の宿場町を作ると言うのは?」
「宿場町?」俺は、この人の言っている言葉の意味が理解できなかった。人も住まない未開拓の土地に……宿場町を作ったからと言って、誰がやって来てくれると言うのか――。
俺の目には、先ほど神様に見えた有栖川さんの、にこやかな笑顔が、人を化かそうとする狐狸の類に姿を変えたように見えた。
* * *
(思えば……悩むまでも無かった訳だ……)
バルコニーのテーブルに積み上げた本を消化する、いつものひと時。
あまりのやかましさに閉口して、バルコニーと自室を隔てる扉を閉ざしても、なお聞こえ洩れて来る陶片の娘たちの声。
有栖川さんの「宿場町を作りましょう」と言う提案は、なにひとつの問題も発生することも無く、軌道に乗りそうな気配を見せていた。




