鞭、時々……飴
単に攻撃しただけで、酷い痛みが手足に走り──どちらが、攻め手なのかも分からない、お粗末な有様。
とりあえず、サッカーのラフプレイの犠牲者よろしく、派手に地面を転がって、過剰にアピールをしてみるも「見苦しい」と一言。
今度はお前をボールにサッカーしようぜ! と仰る御無体っぷりで、転がる俺を蹴り上げて、文字通り一蹴。息の根を止めたいのか? と尋ねたくなるほどの仕打ち。
きっと、あのオークを満足させる水準のトレーニング・メニューが……これから、しばらく課せられるに違いない。
「……ま、アンタもオスなんだし? ちょっとは、そういう腕っ節を身に着けてみてもイイんじゃない?」
ネルが、さも気楽そうに言ってのける。……そのことに、無性に腹が立った。
「……男に生まれついただけで……アフリカ象を素手で倒せってか?」
そんな気は毛頭無かったハズなのに、棘を含む、苛立った声で──返していたかも知れない。
「まぁまぁ♪」ネルは、少し困った顔で宥め「でも身体の方は、もうなんとも無いでしょ?」小首を傾げるようにして、俺の顔色を窺う。
確かにもう……。先程までの、命に関わりそうにも思えた疲労感や、全身の痛みは消えていた。この肉体の再生能力の前には、ツォンカパによる地獄のトレーニングも大した問題には、ならないのか。
「……身体はな。でも、こんなこと繰り返してたら、精神的にやられちまう。早く、なんとかして見切られないと……俺、絶対おかしくなるぞ」
トレーニングで、味わった地獄を思い出して、頭を抱えてしまう。
「仕方無いわねぇ……」ネルは椅子を立つと、俺の背後に回り込んで優しく抱きしめて「……しょうがないから、今日は、つがいのアタシが御褒美にい~っぱい♪ アンタを可愛がってあげるわ♬ 感謝しなさいよぉ~? サービスで、新技も披露しちゃうわよ☆」




