火の呪術師? 誰?
流石に排泄物の処理は、それなりに考えられてはいる様ではあったものの――辺りには黒いティンカー・ベルが、ぶんぶん飛び交い、魔法をかけて回ると言う……不衛生な環境での暮らしぶりには変わりは無い。
釉薬もかけられていない素焼きの器に注いだ、村から与えられた狩りの獲物の、骨髄と芋のスープを彼らが貪るさまを――しばらく眺めていた。
何匹かのゴブリンが、こちらの視線に気づいて声を上げる。仲間の皆に注意を促すような――驚いた感情の色が見える、ざわめき声。
彼らの様子に内心、気後れするものを禁じえなかった。やっぱり、誰かが来てくれるまで話を聞くのは、止して置こうか……。
そんな俺の胸の内を知りもせず、ゴブリンたちは頌の部族の村と、彼らの生活環境を隔てる囲いの際まで慌てた様子で駆け寄ると―― 一瞬、身構えてしまった俺の目の前で「火ノ呪術師様!!」と揃って膝をついて平伏。
「……は?」
「……オ、オレタチ、火ノ呪術師様ニ……マタ、オアイデキル……ノ、待ッテタ……ズット……待ッテタ……」
……どっきり?
背後で俺の驚く様子を眺めて、ほくそ笑んでいる奴でも居るのかと、振り返ってみるが――そんな奴は当然、居る訳も無く。
「……ドカ……我ラ、蛆谷ノ一族ヲ……オ導キ……オ導キ、クラシャイ……」
こいつらが何を言っているのか分からない。そもそも、お勉強こそしていた事はあっても……こいつらの言葉が、堪能に使いこなせる訳でも無い。何かヒアリング・ミスでもしているのでは、とも考えられる。カンガルーや、ミシンみたいな感じの……アレだ。
なぜ、俺を火の呪術師と呼ぶのか? 情報を引き出そうと試みると。
「ア、貴方シャマ……ハ、アノ夜……我等ガ、隷属シタ、アノ夜。火ヲ操ッテ、我ラニ……チカラヲ……オシメシ……ニ、ナラレタ」
(ナニ言ってんだ? こいつら……)。
 




