生物として違いすぎる
小学校の頃に、数ヶ月ほど親に言われて空手の体験レッスンに参加したきり──以後、その手の習い事とは、無縁の生活を送ってきていただけに、上手い説明など、できる訳も無かったのだが。このオークは、そんな俺の説明を理解してくれた。
「……あぁ。アレか。型と言うのか、アレは」
「そうです! アレです! まずは、アレからやりましょう! 俺も初心者なことですし!」
なんかもう、必死過ぎる俺。だが、ツォンカパは、その案をあっさりと切り捨てた──。
「あんな踊り、実戦では、なんの役にも立たん。……よし、次の鍛錬内容を考えついたぞ。ツモイ!」
一事が万事。こんな調子で、鍛錬は繰り返され続けた。
* * *
「……もぅ……ヤダぁ」
トレーニングから帰るなり、テーブルに突っ伏して弱音を垂れ流す。
「お疲れ様♪ って、まだ初日でしょ? なに音をあげてんのよ」
「……しょ、初日」
初日とは思えない、トレーニング内容を思い返して、俺の身体が震える。
「ストレッチという名のツォンカパ・プレス&クラッチ」「丸太をバーベルのように担いでのダッシュ」「ツォンカパに向かってのタックル」「ツォンカパに向かってのパンチ&キック」「自分が入れる深さの穴を掘って埋める×10回(2回目で力尽きて終了)」
……どれもこれも派手さや、格好良さなど皆無な上に途轍もない、苦痛と疲労の連続。
特にツォンカパ相手に行う体当たりや、当身の稽古は……。自身とツォンカパの、生物としての絶望的なステージの違いを、まざまざと教えられ精神的にも追い込まれた。
「好きに打ってこい」
両腕を組んで、ただ立っているだけの相手に──昔取った杵柄とばかりに(小学生時代。数ヶ月間のみ。週2回)突き、蹴りを放ってみたが、ツォンカパの分厚い筋肉を纏った身体は「岩」そのもの。




