石は冷たく
「イイか?! 恨みっこ無し! 遺恨残して、闘諍とか言い出すのも無しだからな!?」
後味の悪いのは御免被りたかった。俺はルールを説明した後で、装填手たちに賞品のチーズを全て渡すと――族長ハリバドラに音頭を取って貰う。
「ガウラフ・ミルデュラの腹から砂を吐き出させろ! 半分……いや、三割程度で充分だ!」
ハリバドラの声に従って、ゴンドラの中から水分を含んだ砂が、掻き出される。
その作業と、掻き出した砂を御神体の周りに撒く作業にこそ、時間を取られはしたものの――再度の発射準備を整えるのには、大して時間はかからなかった。
砂を吐き出したゴンドラは、先程とは打って変わって楽に引き上げることができた。楽なのは良いけれど――達成感も減じてしまい、残念と言えば……少し残念。
まあ……こうしてまた、この楽しいひとときを過ごせる訳だから贅沢は言うまい。
再び引かれた綱が固定された「この綱をぶった切りゃあ良いんだな?」
まさか、やらせて貰えるとは思わなかった発射係。研ぎ澄まされた、大きく顎髭の垂れた斧を手に俺は――内心、小躍りしそうなくらいに浮かれていた。
やはり「強力な戦士を」と言うフレーズは効果覿面だったらしい。族長ハリバドラも、このおふざけに参加してくれるらしく、スタート・ラインについていた。
「ツモぉイ!! 発射も合図も、お前がやれっ!!」
なんという大役か。俺は斧を振り被って、肺に息を思いっきり吸い込むと、合図と同時に勢い良く斧を振り下ろした。
「スっタナァーーーッ!!」
* * *
発射と共に大きく揺れて悲鳴を上げる木製構造物――夜の平野に軋みを響かせる巨体。御神体を避ける様に一斉に走り出して、空を見上げるオークたち。
(……ああ、そそのかしておいてなんだけど……コレ。こいつらじゃなきゃ……成立せんかったわ。人間の俺にゃ、飛んで行くチーズなんて暗くて、見えやしねぇもの)
綱を固定するために地面に埋設された丸太目掛けて斧を撃ち込むと、走り出した皆の後を追って、俺も歩き出した。
 




