これが、俺のありふれた日常
広すぎる湯殿を後にして、食事を御馳走になってから、俺たちはアルパゴンに「申し訳ありませんが……『ソレ』見てると、なんだか気分がモヤモヤしますので、お持ち帰り下さいませ」と言われてしまい、デシレアが弄り倒した、この悪魔のコレクションは、引き取った上で屋敷に戻る運びとなった。
そして、その『なんだか気分がモヤモヤするので』の一言は、大層ショックであったらしく、デシレアは口から魂が飛び出しそうなほど、呆然とした表情を見せたあとで――彼女は、それらを『門』で、どこかにへと飛ばして、俺たちは皆で屋敷へ。
アルパゴンに小さな舌を出して涙ぐみ、自身の巣へと帰って行く彼女を見送った後で――俺もトーヴェも、それぞれの部屋へと戻ることに。
「ツモっ……だ、だぁんな様っ♪」
玄関ホールで麻雀のアガリみたいな声。そこから強引な軌道修正をみせたキーラが、愛嬌を感じるアヒル口と、人懐っこい目を向ける。
「暫く、嵐で外に出られなかったし、少し馬で出ようと思うんですけど……御一緒にいかがっスっ……いかがですか?」
「……………………」
――そうだった。『門』を通って、アチラからコチラへ帰って来て、すっかり忘れていた。今日は、まだ始まったばかり。
まだ昼にもならない、こんな時間にもかかわらず。みっともないこと、この上も無い話ではあったが、彼女の折角のお誘いを、丁重に丁重に断ると――生気を失った幽鬼の足取りのそれで廊下を歩く。
「いくらなんでも……、1日が長過ぎなんだよ」
身体の疲れなんて微塵も残っていないにもかかわらず、部屋まで戻る距離までもが、何故か途方も無いもののように感じられた。
 




