国宝損壊
「そういった意味では……最大の悲しみは身近な人の死であるとされますが……、しかし「対象が失われる」とは死だけではなく、存在が遠くなる、つまり恋人との別れや……伴侶の単身赴任といったことや、大事にしていた物が壊れる、楽しみにしていた行事が無くなる……といったことも含まれることもあるのだ……とか。対象が失われる程度についても、悲しみの深さに大きく起因する事項とされますよね……も、もしや……こ、この感情が……悲しみの感情……」
らしくもなく……ぶつぶつと、なにかを呟く悪魔―― 一体、これをどう表現したら良いのかと説いたげな、悩ましい表情で。自身に湧き上がる感情に整理をつけようとしているかのよう。
「えぇ~っと……アルパゴンさ……ん?」
できる限りの媚び、たっぷりの表情を浮かべて、ご機嫌を窺ってみる。
「はぁ……ああ、もう……。一体全体、どうして下さるんですか……もぉう」
* * *
配下の悪魔さん方からの報告を聞くアルパゴンの目は虚ろで、大粒の涙でもこぼし始めそうな空気。この悪魔に涙を流すと言う行為が可能であるならば……の話ではあるけれど。
「……被害は……以上となります」
俺は、顔から血の気を引かせた悪魔と言うのを初めて見ていた。それ以前に悪魔に血の気が、通っていると言うことに驚くべきところなのか?。
「デシレア……さん?」
もはや魂の抜け殻とでも言うかの様なアルパゴン。観念したようにデシレアが口を開く。
「せ、性能は間違い無く向上してるから! 自信作だよ?!」
ああ、なるほど……と、俺は思った。
つまりは、いつもの彼女の「出来の悪い品が視界に存在すると、弄り倒さなくては気が済まない」と言う悪い癖が出た訳だ。
顔を抑えて俯く、アルパゴン。
「……あのですね……デシレアさん」
なんだか静かに怒っている様にも聞こえる声の響きに――流石の彼女も顔を強張らせる。
「な……なぁに?」
 




