魔界のガンスリンガー
あの港での撃ち合いを思い返せば――夜に海から吹く風の影響に、普段からこの土地で慣れ親しんでいたことで、救われた様に思うけれども。……もっ!。
「距離は如何なされますかぁ?」グレープジュース色の、積み上げられた不気味な西瓜(怖ろしいことに味はマンゴスチンに近く、歯触りはスイーティーの様で、大変美味)を手に弄び、悪魔の陽気な声。
「いつも通りで良いわ……18メートルで」これ以上、自信を失うと俺……どうなっちまうか、分かりゃしない。
「畏まりましたぁ♪」形ばかりの薄っぺらい一礼を取ると悪魔は、いつもの様に自分の影を増やして、寸分違わないコピーを創り出して――弾丸を命中させると断末魔の声を上げる西瓜を抱えて指定した距離まで走らせた。
「この辺りですかぁ?」走り去った影の声が届く「は~い♪ その辺でお願いしま~す」その声に返事をする本体。
なんかもう慣れちゃって、違和感も感じなくなっていたけれど――
レンジに入っている人? ……的なモノが居るってのに、平気でぶっ放すようになっていた俺って、マナー以前に人間として……どうなんだろうか。
そう言えば、なんだかんだ思いつつも、初めて生身の人間を相手にしたにもかかわらず、平気で鉛玉を撃ち込んでいたことを思い出して、テンションは急降下。
「ほら! ご主人様! どんどん影を増やしているんですから! さっさと撃って下さい♬」アルパゴンの声にレンジを見ると、手に西瓜的な――ナニかを持って、愉し気に笑う十ニ体の影たちが、めいめい好き勝手に振る舞い出していた。サザエさんを踊るな!。
これも今更と言えば今更。俺はひとつ深く息を吸い込むと、レンジで走り回る悪魔の影たちが持つ西瓜を狙い――引き金を引いて、撃鉄を落とした。
 




