おにーちゃんを一人にしないで
「……アルパゴ……ン。……おまえ、俺に仕えてると……か、絶対……嘘だろ……嘘だよな……」
時間潰しのお茶の席。俺はテーブルに突っ伏して、ぐったり。
「やぁ~ご主人様は、いつも良い表情をなされる! 流石で御座います! お仕えのし甲斐があります!」
無上の喜びを浮かべて見せる悪魔。どこの世界に、ご主人様を追い詰めて喜ぶ執事が居ると言うのか――解雇したいわ。
デシレアはと言えば。昔、近所のケーキ屋で目にした、タヌキのチョコケーキならぬ、悪魔のツノが生えた真っ黒なチョコケーキに「カワイイ! 美味しいっ!?」とご満悦で、俺の様子には、まるで構ってもくれなかった。おにーちゃん……寂しいぞ?。
そんな具合で時間を潰していると、いつも使用させて貰っている練習場の用意が整ったと知らされ、ふらつく足で立ち上がる。……さっさと終わらせて……帰ろ。
「おにーちゃん?」
お口に付けた生クリームとチョコレートをぺろっと舐め取り、デシレアが別行動を取りたいと言い出した。君が居ないと……説明されたことを理解できるかどうか、不安なんですけれど?。
「大丈夫だよ! おにーちゃん! 雛は教えられなくても殻を破って孵って、飛ぶものなんだよ!」
(俺……人間なんですが?)
不安から渋ってみたが、どうやらデシレアは城の建築様式にでも興味が湧いたのか、ひとり別行動をしたくて堪らない様子。
この子のわがままを聞いてあげられる機会なんてそうそうありもしない無い訳で……。少しの心配もあったが、彼女の単独行動を許して、俺は射撃練習場へ。
――そこは、城下町の外れに広がる砂漠の中にあった。
大きな砂丘を望む場所で、一応、周囲の人払いならぬ、悪魔払いも済まされ、安全に射撃が行えるとのこと。
俺は、アルパゴンに1人射撃の練習が行える場所を訊ねて以来、40年以上の時間を、ここに併設された小さな住居で過ごした。
その結果が、あのアンティグアでのお粗末な撃ち合いだと言うのだから、――涙無しには語れない。




