そして再度の過ちを
放って置かれて、少しシュンとした様子を見せる彼女の口に、小さくカットされたことで、過度に酸化が進行してカピカピになった――好意的に見ればミモレットの様な熟成っぷりにも見えるチーズの欠片を突っ込む。
「……? ……ん……んん?! んん~っ!?」
彼女が驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべる。餌付けと呼ばば、呼べと言った感じの、お粗末なやりとり――彼女は小さすぎる赤い瞳を丸くして、頬に朱を差し嬉しそうな表情。
「ボチボチ戻ろうか。じきに晩メシだし」
手を差し出すと、彼女は恥ずかしそうにモジモジしてから――義妹とは言っても、中々にキツイ……なんとも言えない表情を浮かべて手を取り、一緒に屋敷へと戻った。
* * *
――その日の夕食の席――
「……あー、それで。あの子、あーな訳ね……」
屋敷に戻り、トーヴェと別れて、部屋でシャワーを浴び、着替えて食堂に向かうと、上機嫌の……それは、まるで――今から売人をぶっ殺して、奪ったヤクをキメて、月の裏側までブっ飛ぶんだ……へへへっ。
――と、悪意満点のアテレコをも許容できそうな笑みを浮かべる、トーヴェ。その様子について俺がおこなった経緯の説明に、ネルは呆れ顔。
「なんぞ呆れられる要素が、今の説明の中にありましたかね?」
ネルの様子に、少し……ほんの少しだけ、ムッとしたものを抱きつつ聞き返すと、彼女は――
「べっつにぃ~っ?」そんな形ばかりの否定から入って「前にも言ったと思ったケド~? アタシたち獣にとって、求愛の際には~、ハイっ? なんでしたか?」呆れるに足る胸の内についてを、ハードルは下げに下げてあげたわよ? と言った調子で、俺にクエスチョン。途端に俺は、胃を冷たい腕で、鷲掴みにされたかのような感触に囚われていた――。
「……お、オスが……め、メスに……食べ物なり、巣を差し出すなり、歌だったり、踊りだったり、オス同士の闘いの勝利を捧げる……だった……でしょう……か…………」
義妹の口に何気無く、突っ込んだチーズの欠片。
 




