もうダメぽ……
床から耳に届く音から――メルトゥイユが駆け寄るのが感じられた。俺は目にしてしまった「それ」に恐怖の虜になって、みっともない声を上げ続ける。
呑み込まれた糸の塊の中で目にした「それ」は――真っ赤に輝く、小さな2つの目と、俺のシャツの胸元を掴む、病的に痩せ細ったガリガリの子供の腕。
反射的に指輪から「おちんちんシリーズ」を1丁呼び出すが、それを手にした腕は、直ぐに糸にがんじがらめにされて――と言うよりも、恐ろしい力で糸に押さえつけられて、引き金に指をかけることも、動かすこともできない。
「に……に…………に……に……」
そんな中で耳にした、明らかに声と分かるソレ。
俺に残された最後の平常心を消し飛ばすには充分な、壊れた楽器が鳴らす音のような声。
大声で喚いて、もがくも――糸に呑み込まれた俺には、部屋の様子を窺うこともできない。そして――メルトゥイユの身の安全を気にかける余裕すらも、失ってしまっていた。
ぱたっぱたっ……と顔に落ちる液体。それが何であるかは直ぐに理解できた。顔を嘗め回すヌメる舌の感触。舌は俺の両目を探り当てると――瞼を抉じ開ける様に眼球を執拗に嘗め回し続ける。
俺は、そこで恐怖に囚われた意識を手放した。
* * *
「んん~~~っ♪」
幾度と無く耳にした、聞き覚えのある幼さ残る声。
朦朧とする意識の中、部屋に満たされた、甘いお菓子の香りと柔らかな――覚えのある太ももの感触と、髪を撫でる手。
「どうじゃあ? イープ、美味しかろうなのじゃ♬」
「……うん。食べたこと無い」
「こ、この! 甘さの中に、ほろ苦さを感じる……く、黒いの! 大好き! いつものと味が違う?!」
「ア〝ア〝ア〝ッ……〝ア〝アッ♪ ア〝ア〝ア〝ッ〝ア〝ッ♬」
耳に届くのは、屋敷の娘っ子どもの――おやつ時に交わされる団欒。
 




