結局、なんだったんだ
この人のこと――実際には「ミスもある」と仰いながらも、実際には……それをやらかすなんて事は、とても想像できない。一房、二房程度の量であればと「あるいは」の話を口にしてみせたが、その分量であっても怪しいものだ。
端的に言って、有り得ないことに違いない。
「それに……で御座いますが」
有栖川さんは、さらに――俺が目にした糸が、彼らが、買い付けたスコラスチカの糸では無い論拠を挙げる。
「次に彼女の糸を引き取るのは、まだ少し先で御座いまして……いえ、これはお嬢様にもお話をお伺いしませんと、断定はできませんし、ひょっとしたらスコラスチカ様の方で、なにかをなされていた可能性も捨てきれませんので……なんとも申し上げられませんが」
有栖川さんとデシレアが、その量の糸をうっかり落として忘れて去った可能性は、限り無く小さそうではある。むしろ、あのスコラスチカが、うっかり糸を落とした――と言うよりも糸を吐き出したと言う可能性は、それに比べれば幾分も大きなものに思えた。酒でも口にして酔っ払っていたのか……。
いや、彼女にとってアルコールが猛毒であることは、屋敷で彼女と暮らす様になってから、話を聞いたことがある。有り得無い。
(でも……代わりに別の何かで酔っ払うとも聞いた気もするけれど、なんだっけか……)
「お役に立てずに申し訳御座いません」頭を垂れて謝罪を口にする有栖川さん。
現場での検証を、そこで終えることにした。
写真のひとつも撮っておけば良かった……とも思いはしたものの、この件がココに住む女共が関わるなんらかのミスであったなら……そしてそんな真似を、俺がしようものなら。
「オスの癖にメスの揚げ足を取ってグチグチ、グチグチ言うんじゃないわよ!」
と、この屋敷で、異常に立場が低い俺に、小言が多い、姑のように狭量な輩と言う――不名誉なレッテルが貼り付けられて……また、ロクでも無い空気が拡がるのが目に見える。
雷鳴に今日、何度目かの悲鳴をネリッサが上げる。静かに会釈する有栖川さんと別れて、俺は彼女を部屋へと送ってやることにした。
 




