糸
「……いや、なんかですね? ここに……ホールの床に……銀色の糸がぶわーって、さっきまで広がっていたんですけど……。スコラスチカの糸を買い付けてたでしょ? ひょっとしたら、うっかり落としたまま……気づかれなかったのかとね? 手で触って商品価値が無くなったりしたらとか、触って問題無い物かどうかも……分からなかったもので……」
「……糸……ですか」
* * *
それから彼は、今日こちらにやって来てから、スコラスチカの糸を回収したり、運搬したりと言った、作業を行ってはいないことを説明した上で――
「その糸ですが……一体、どの様な感じで、こちらにありましたのでしょうか?」と、ホールを見回しながら。
訊ねられるままに俺は、その糸が落ちていた状況を説明。
「……なんかですね。こう……そう、その辺りです」ホールの中央を指差し「床に2~3メートルぐらいですかね。真ん中の少し盛り上がった部分を中心にして、放射状に丸ぅ~く、拡がるみたいにですね……」
糸が、落ちていた辺りを説明して、指で――今は存在しない糸の塊を囲む。
「…………」しばらく考え込む有栖川さん。そして彼は俺に、それについての見解を述べた「……実際に、その場を見ていませんので、詳しいことは申し上げられませんが……百千万億様の仰る分量の彼女の糸となりますと、恐らくは重量で7~8キロは超える量になるかと考えられます。一房、二房程度の量でしたら……このわたくしにもミスは御座います。落として気付かないことも考えられはしますが……その分量となりますと、流石に気づくようにも思われます」




